いつもの朝が


プルルルル、プルルルル、プルルルル。


うーん、遠くで音が鳴っている。


何だったっけ、この音。


そうか、目覚まし時計か。


アイツはアイツの役割を果たそうとして、わたしを眠りから起こそうとしているのか。

たいしたヤツだ、わたしは起きた、誉めてつかわす。


ガチャ。


ムニャムニャとまどろみながら、手を伸ばして目覚まし時計のアラームを解除する。

時間は何時だ、まだ朝の6時ではないか。


何でこんな早くに鳴るのだ。


まだ完全には起きていない頭で、目覚まし時計が鳴った理由を探す。


ここ最近は、外出を控えろだの、リモートワークに切り替えろだのって騒がれ、わたしも決して例外ではなくそれに巻き込まれ、すっかり時間と曜日の感覚が薄れてしまっている。


今は何日の何曜日?時間は朝の6時、それはわかっている。


頭の中のカレンダーをなぞり、今日のスケジュールを導き出す。



そうか、今日は出勤だ。


わたしは普段、都内の住宅メーカーに勤めていて、勤務は平日の9〜18時、残業は月末に少しあるくらいで、土日はよほどのことがない限りは休み。


仕事は主に経理をやっていて、会社のパソコンを使えないとできないことがいくつかあるけれど、この非常事態、どうにか自前のパソコンで在宅でやるようにとお達しがあったわけ。


1日の、仕事のはじめと終わりには、経理部門のリーダーにメッセージを送ることになっているけれど、やるべきことを自分のペースでできるのは性に合っている。


困ったのは休みの日で、誰と会うにも気を使うもんだから、親や友だちとの連絡は、ほとんどLINEで済ませている。


それに、やたら時間があるものだから、ドラマやマンガを見出したらとまらなくなってしまう。


そんな調子だから、最近の金曜日とか土曜日の夜は、つい夜更かしをしてしまう。


いつの間にか寝てしまい、夜中の2時くらいまで記憶はあったはずだが、起きたら時計の表示は3時、あれっ1時間しか寝ていない!?って、勘違いする日もあったくらいだ。


部屋のカーテンは閉めているもんだから、12時間以上寝ると今の時間がよくわからない。


生まれたての赤ちゃんと異なり、こちとら寝るのが仕事というわけではないけれど、こんなにも人間は寝れるのかということを、自分の身で実感している。


せめて、24時間を越えて、どこかの1日を飛ばすことのないようにしたい。


よもやこんな日が来ようとは、人間誰しも生きてみないとわからないものだなと、しみじみ思っている。


何はともあれ、今は久しぶりの出勤に備え、身支度を整えなければならない。



今はそれに専念しよう!


あれ、身支度って何するんだっけ?


平日の仕事の時は、一応シャツにデニムにと着替えていたけれど、それ以外のほとんどの時間は、動くのがラクチンなTシャツにレギンスを合わせて過ごしている。


そして、肩にかかるかどうかだった髪は随分と伸びた。


「よしっ!」と自分を鼓舞するようにして、わたしは洗面所に向かった。


鏡に向かうわたしは、どこか焦点の合わない様子で、鏡の中のわたしをのぞいている。


髪はずいぶんと伸びて、根元は黒い。


これは、即席のハーフアップで、どうにか根元や生え際をごまかすしかないな。


普段は、セットが楽だからという理由で、緩くパーマをあてていたけれど、その名残は今はない。


そうだ、次の週末に備え、美容室に予約入れておかなくっちゃ。


顔を洗ってスッキリしたわたしは、少しずつ、いつもの出勤にかかる身支度の仕方を思い出してきた。


朝食は、今はそんなに食べる気がしないから、ヨーグルトを食べるくらいにして、あとは行く途中のコンビニに寄るとしよう。


次に、クローゼットを眺めて、今日着る服を選ぶ。


今日は、特に何をするということはないはずだから、無難なパンツスタイルにしておくか。


わたしは、基本は経理の仕事をしているけれど、ときどき企画会議に出席したり、営業に同行したりする。


だから、いかにも"できます"といったキャリアウーマン風のスーツは着ないけれど、だからといってオフィス・カジュアルまではいかないように気をつけている。


それに、うちの会社、特に上層部が、積極的に若手や女性の意見を取り入れようとしている。


ひとりひとりを大事にしている感じがして、いわゆる"オジサン"体質でないところが、わたしは結構気に入っている。


メイクはあくまでナチュラル、基礎化粧品には力を入れていて、オーガニックの言葉に弱いお年頃。


雑誌をチェックしたり、試供品やデパートの化粧品売り場で見たりして、自分の気にいるものを探すのは好きな方。


それよりも、クリーニングに出したブラウスは、どこに置いたっけ?


出勤自体久しぶりだから、以前の記憶がどうも心もとない。


そうか、玄関においたままか、かかっているビニールを取って、ハンガーにかけておけば良かったな。


そう思うもあとの祭り、ひとまず今日はこれを着ていくしかないな。


あとは何だっけ?


気が散るといけないから、朝のニュースも、ケータイに来ているメッセージも、チェックはあとにしよう。


とにかく今は、手際よく身支度を整えるばかり。


何だかんだで、これで良いと思うところまでは来た。


ついに履き慣れたパンプスを取り出し、わたしは家をあとにする。



道すがら、何かいつもと違う雰囲気を感じるけど、何だろうこの感じ。


久しぶりに出勤するからなのかもしれない。


何だか入社したてのようで、ドキドキするな。


いつもの駅に向かう道が、いつもの道じゃないみたいだ。


自宅から15分くらいかけて、最寄りの駅に着く。


どうにも歩いている人が少ないのが気になるが、今はそういう時期なのだなと思いながら改札をくぐり抜ける。


ぼんやりとホームに立ちながら、乗るべき電車を待つ。


いつもなら駅に着いて、10分も経たないうちに来るはずの電車。


あれ、いつもの時間に、いつもの電車が来ない。。。


そこでようやく気づく、今日は日曜日だ、と。



頭の中の記憶が、パチパチと音を立ててつながって、わたしはコトのすべてを理解した。


今をさかのぼること十数時間前、土曜日の夜に同僚のチカから「月曜日は出勤だ」との連絡があって、そのまま話し込んだんだっけ。


直前になって慌てるのはイヤだから、いつものように長電話になったこの電話の最中に、ネイルやパックをして、できる準備は今のうちに済ませておこうと思っていたんだ。


そして、目覚まし時計を朝鳴るようにしていたのは、いつものリズムを取り戻そうと思っていたからか。


チカは何も悪くない、勘違いしたのはわたしの方だ。


昨日のわたし、グッジョブ。


今日のわたし、おっちょこちょい。



でも、こんな日があってもいいと思う。


少し遠回りをして、いつもは通らない道を選んで、家へ帰ろう。


帰ったら何をしようか。


窓を開け放して、部屋の片付けからはじめるか。


わたしはいつだって、この世界が良くなることを願っている。


いつもの朝が、また来ますように、と思っている。



傍島康始(そばじまやすし)/次の"高み"へ@千葉:展示会・イベント関係従事、飲食店勤務などを経て、新しい働き方&仕事の仕方を模索中*#西野亮廣エンタメ研究所#五星三心占い#銀の羅針盤*ロック、メタル音楽が好き*親子丼食べたい♪

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